今日も、風が強かった。
今日の講義をすべて終え、俺はまたいつもの公園へと足を運んだ。もしかしたら、またあの子がいるのではないかと、全然確信のない事を考え、そんな思いが俺を公園へと向かわせていた。
昨日と同じ位置から、あの子のいた方を見る。
―いた!
あの子は昨日と同じ様な格好で、桜の木を見上げていた。
俺はふらふらと、その子の方へ歩きだした。
近付いて何をしようというのか、あの子の素性も何も、俺は知らないじゃないか。
しかし、もう少し彼女と近付きたかった。見ているだけでも構わない、今の距離より、もっと近付きたかった。
彼女の少し手前まで来て、歩みを止める。はっきりとわかった彼女の姿は、綺麗だった。色素の薄い髪の隙間から、少し色白の顔が見える。散りゆく桜を受け止めるように、手で器を作るような形にして、腕をそっと上げている。薄ピンクのセーターに、ベージュのロングスカート、はためくスカートから時々細く白い足首がのぞく。
垣間見える表情は、微笑んでいる様で、しかしどことなく翳りがあるように見えた。
改めて、俺は彼女に見惚れてしまった。
もう少し近付きたい、話してみたい、彼女に、少しでも自分を印象づけたい。
様々な欲望と迷いを混ぜながら、俺は再びゆっくりと歩きだした。
近付く度に、心拍が強まる。顔が熱くなる。激しく波打つ鼓動が、頭にまで響く。脳までもが沸騰して、倒れてしまいそうだ。体が何故か微かに震える。気をしっかり保たないと、このまま暗転してしまいそうだ。
少し長く吐けば、息が届く位の距離まで近づき、俺は止まった。
その途端、彼女の顔がこちらを向いた。
仰天して、息が詰まる。心臓が、どくんっと強く波打つ。
彼女はきょとんとした顔で俺を見つめる。
「あぅっあっあのっそのっ……」
頭の中がパニックに陥る。言葉がうまくまとまらない〜!
何か話題を出さなきゃ、何か、何か……
「き、昨日もここに、いたよねっ?」
瞬間、俺は猛烈に恥ずかしくなった。かつてなかったくらい声が上擦ったのだ。
なぁんで俺はこういう場合に弱いんだ〜!
頭の中が更にパニックに陥り、言葉を紡ぐことはおろか、彼女を正視する事すら出来ない。
彼女はしばらくきょとんとし、やがてくすっと軽く笑った。
その仕草が、沸騰していた頭を少しずつ冷ましていった。
第三話へ続く